子供と一緒に「欲しい」を「計画」する練習
お金との向き合い方を子供にどのように伝えれば良いのか、悩まれる方は少なくありません。特に日々の生活に追われる中で、将来子供がお金で苦労しないかという不安を感じることもあるかと存じます。お金の話自体に難しさや抵抗を感じる場合、どのように始めれば良いか戸惑うこともあるかもしれません。
しかし、お金について学ぶことは、子供が将来、自分の力で人生を切り拓いていくために大切なスキルの一つです。そして、それは決して難しいことではなく、特別な教育や多額のお金を必要とするものでもありません。日々の生活の中で、子供の身近な「欲しい」という気持ちをきっかけに、自然な形で学ぶことができます。
この記事では、子供の「欲しい」という気持ちを、将来の経済的自立につながる「計画」へと発展させるための具体的な練習方法をご紹介します。この練習は、お金をかけずに、親子で楽しみながら取り組むことができます。
子供の「欲しい」からお金の学びを始める理由
なぜ、子供の「欲しい」という気持ちからお金の学びを始めるのが良いのでしょうか。その理由は、子供にとって「欲しい」という気持ちが、お金の存在やその価値を現実的に認識する最も身近で強い動機となるからです。
子供は成長と共に様々なものを「欲しい」と感じるようになります。それはおもちゃであったり、お菓子であったり、時には友達が持っている少し高価なものであったりするかもしれません。これらの欲求は、子供にとってごく自然なものです。
この「欲しい」という具体的な目標があるからこそ、子供は「手に入れるためにはお金が必要だ」「お金があれば手に入る」「お金には限りがある」といった、お金に関する現実的な制約や価値を肌で感じやすくなります。抽象的な「お金は大切だよ」という話よりも、自分の具体的な願望と結びついた学びの方が、子供の心に響きやすく、主体的な行動を促す力となります。
「欲しい」を「計画」に変える具体的なステップ
子供が何かを「欲しい」と言ったとき、それをすぐに与える代わりに、一緒に「欲しい」を「計画」に変える練習をしてみましょう。以下に、具体的なステップをご紹介します。
ステップ1:欲しいものを具体的にする
まず、子供が何を「欲しい」と思っているのか、具体的に話を聞いてあげましょう。絵に描かせたり、写真を見せてもらったりするのも良い方法です。漠然とした状態から、はっきりとした目標にすることが大切です。なぜそれが欲しいのか、手に入れたらどうしたいのか、子供の気持ちに寄り添いながら話を聞きましょう。
ステップ2:いくらあれば手に入るか調べる
次に、その欲しいものがいくらで手に入るのかを一緒に調べます。インターネットで価格を検索したり、お店のチラシを見たり、実際に店舗に行って値段を確認したりします。この過程で、同じようなものでも値段が違うことや、お店によって値段が違うことがあるといった発見があるかもしれません。これは、お金の価値や選択について学ぶ良い機会となります。
ステップ3:今持っているお金を確認する
欲しいものの値段が分かったら、今子供が持っているお金(お小遣いやお年玉など)がいくらあるのかを確認します。お財布や貯金箱の中身を一緒に数えてみましょう。このとき、足りているのか、足りないのかが明確になります。
ステップ4:足りない分をどうするか一緒に考える
もし持っているお金で足りなければ、どうすれば手に入るかを一緒に考えます。考えられる選択肢はいくつかあります。
- 貯める: 足りない分を貯金して、いつか手に入れる計画を立てます。
- 別の機会にする: 今すぐに手に入れるのは難しいと判断し、諦めるか、将来の目標として心に留めておきます。
- より安価なものを探す: 同じような機能や役割を持つ、より安価なものがないか探します。
ここでは、すぐに親がお金を足してあげるのではなく、子供自身にどうしたいかを考えさせることが重要です。
ステップ5:手に入れるための計画を立てる(貯める場合)
「貯める」という選択をした場合、具体的な計画を立てます。いつまでに手に入れたいのか目標期間を決め、そのためには1週間や1ヶ月あたりいくら貯めれば良いのかを計算します。お小遣いの一部を貯金に回したり、お手伝いでお金を得る方法があればそれも計画に組み入れたりするかもしれません。カレンダーに目標達成日を書き込んだり、貯金目標額を書いた貯金シートを作ったりすると、子供は視覚的に progress を確認できて励みになります。
ステップ6:計画を実行し、振り返る
計画を立てたら、あとは実行するのみです。定期的に貯金額を確認し、計画通りに進んでいるか、あるいは遅れているかを親子で確認しましょう。計画通りにいかなかったとしても、それを責めるのではなく、「どうすれば計画通りに進むかな?」「何か手伝えることはある?」と前向きに話し合います。目標達成した際には、その努力を大いに褒めてあげてください。もし計画通りにいかずに諦めることになったとしても、なぜうまくいかなかったのかを一緒に振り返ることは、次の機会への学びとなります。
親の役割と心がけ
この練習において、親は「先生」ではなく「伴走者」であることを心がけましょう。
- すぐに答えを与えない: 子供自身に考えさせる時間を与えます。「どうしたら良いと思う?」と問いかけ、自分で解決策を見つけられるように促します。
- 失敗を恐れない環境を作る: 計画通りにいかなくても、それは学びの過程であることを伝えます。失敗から学び、次に活かす姿勢を育むことが大切です。
- 粘り強く付き合う: 子供が途中で諦めそうになったり、計画を忘れてしまったりすることもあるかもしれません。責めるのではなく、「どうなったかな?」「一緒に確認してみようか」と根気強く声をかけ、一緒に取り組み続ける姿勢を見せます。
- 小さな成功を褒める: 目標額の一部が貯まった、計画通りにお小遣いの管理ができたなど、小さな成功体験を具体的に褒めることで、子供のモチベーションを維持します。
- お金の話をポジティブに: お金の話をネガティブなものとせず、「夢を叶えるためのツール」「選択肢を広げるもの」といったポジティブな側面も伝えていきます。親自身がお金に対して過度な不安や抵抗を示さないことも重要です。
この練習が子供に育む力
「欲しい」を「計画」する練習は、単にお金の使い方を学ぶだけでなく、子供の将来に役立つ様々な力を育みます。
- 計画性: 目標に向かって、今何をすべきかを考え、手順を組み立てる力が身につきます。
- 忍耐力・我慢する力: 欲しいものをすぐに手に入れられない状況を受け入れ、目標達成のために努力する力が育まれます。
- 目標達成力: 自分で立てた計画を実行し、目標を達成する経験は、大きな自信につながります。
- 問題解決能力: 計画通りにいかないときに、どうすれば良いかを自分で考え、解決策を見つけ出す力が養われます。
- お金の価値理解: 自分のお金がどのように使われ、どのように貯まっていくのかを体験することで、お金の価値をより深く理解します。
これらの力は、子供が将来、様々な状況で自分の人生を主体的に選択し、切り拓いていくための基盤となります。経済的な自立はもちろんのこと、学業や仕事、人間関係など、あらゆる場面で役に立つでしょう。
まとめ
子供の「欲しい」という気持ちは、お金との前向きな関係を築き、将来の自立につながる大切な力を育むための入り口となります。高価な教材や特別な時間を用意する必要はありません。日々の親子の会話の中で、「これ欲しいね。いくらするのかな?どうしたら手に入るかな?」と問いかけ、一緒に考え、計画を立て、実行してみる。この繰り返しこそが、最も効果的なお金の学びとなります。
最初から完璧を目指す必要はありません。時には計画通りにいかないこともあるでしょう。しかし、大切なのは、子供自身が考え、悩み、そして自分で決めるという経験を重ねることです。焦らず、子供のペースに合わせて、この「欲しい」を「計画」する練習を続けてみてください。この小さな一歩が、子供の明るい未来へとつながっていくはずです。