親子で育む賢いお金の使い方:身近な買い物から学ぶ「価格」と「価値」
日々の暮らしの中で、私たちは様々なものを購入します。子供たちも、おもちゃやお菓子、文房具など、身近な買い物を通して自然とお金に触れる機会が多くあります。この日常的な買い物は、子供たちがお金について学び、将来、自分自身で判断し、賢くお金を使うための大切な機会となり得ます。
単に「高い」「安い」だけで判断するのではなく、モノやサービスに付随する「価格」と、それが自分や家族にとってどれだけ役に立ち、満足をもたらすかという「価値」の違いを理解することは、限られたお金を有効に活用し、豊かな暮らしを送るための重要な視点です。この考え方は、経済的な状況に関わらず、家庭で子供に伝えたい基本的な金融リテラシーの一つと言えるでしょう。
「価格」と「価値」の違いとは
まず、「価格」とは、そのモノやサービスを購入するために支払う金銭的な額を指します。一方、「価値」とは、そのモノやサービスから得られる機能、品質、耐久性、満足感、安心感、あるいはそこから生まれる経験など、価格だけでは測れない、受け取る側にとっての重要性や有用性を意味します。
例えば、安価な靴をすぐに履きつぶしてしまう場合と、少し高価でも丈夫で長く履ける靴の場合を比べてみましょう。価格だけを見れば安価な靴の方がお得に感じますが、何度も買い替える手間や費用、履き心地の悪さを考慮すると、高くても長く使える靴の方が結果的に「価値」が高いと感じるかもしれません。
このように、「価格」と「価値」は必ずしも一致しません。価格が安くても価値が低いものもあれば、価格が高くてもそれ以上の価値を持つものもあります。この違いを理解することは、単に節約するということだけではなく、自分にとって本当に必要なもの、満足度の高いものを見極める力を養うことにつながります。
日常の買い物で「価格」と「価値」を考える習慣を育むステップ
子供と一緒に「価格」と「価値」について考える習慣を育むには、特別な教材や費用は必要ありません。日々の暮らしの中で、具体的な場面を通して繰り返し話し合うことが効果的です。
ステップ1:買い物前に「なぜ買うか」を考える
お店に行く前や、インターネットで何かを見ている時に、「これが欲しいね」という話になったら、すぐに値段を見るのではなく、まず「なぜそれが欲しいのかな?」「どんな時に使うものかな?」といった問いかけをしてみましょう。
例えば、おもちゃが欲しい子供には、「このおもちゃでどんな風に遊びたい?」「今持っているおもちゃで同じように遊べるかな?」と尋ねてみます。服が欲しいという時には、「どんな時に着る服?」「今の季節に合う?」「持っている服と合わせられるかな?」などと話し合います。
このように、買う目的や必要性を考えることで、衝動買いを防ぎ、本当に必要なものを見極める第一歩となります。
ステップ2:商品の「価格」を確認し、比較する
次に、欲しいものが見つかったら、そこに付いている「価格」を確認します。同じような商品が複数ある場合は、それぞれの価格を見比べてみましょう。「このジュースは100円だけど、隣のジュースは150円だね」「この鉛筆は3本セットで200円、こっちは1本80円だから、どっちがお得かな?」など、具体的な数字に触れる機会を作ります。
価格を比較することは、単に安いものを選ぶということだけでなく、同じ機能を持つものでも価格が違うことがあるという気づきを与えます。
ステップ3:価格だけでなく「価値」について話し合う
価格を確認した後で、いよいよ「価値」について考える話し合いを始めます。この段階では、一方的に教え込むのではなく、子供と一緒に考え、感じたことを言葉にすることが大切です。
- 品質と耐久性: 「この服は少し高いけど、生地がしっかりしているから長く着られそうだね。安い方はどうかな?」
- 機能と使いやすさ: 「この水筒は安いけど、蓋が開けにくいかな?こっちは少し高いけど、子供でも使いやすそうだね」
- 満足度: 「一番安いお菓子でもいいけど、本当に食べたいのはこっちの少し高い方?本当に美味しいものを食べると、もっと満足できるかもしれないね」
- 時間や手間: 「外食は高いけど、家で作る時間がない時は助かるね。その便利さにも価値があるね」
- 経験: モノだけでなく、体験についても考えてみます。「動物園に行くのはお金がかかるけど、色々な動物を見たり、家族で楽しい思い出を作ったりできるね。それはどんな価値があるかな?」
すぐに子供が理解できなくても構いません。「価格はこれだけれど、そこからどんな良いことがあるかな?」「もし安い方を選んだら、どんなことがあるかもしれない?」といった問いかけを続け、価格の背景にある様々な要素に目を向ける手助けをします。
ステップ4:買い物後にも振り返る
購入したものについて、後日改めて振り返る時間を持つことも有効です。「この前買ったおもちゃ、よく遊んでいるね。買ってよかったね。どんなところが楽しい?」「あの服、思っていたよりすぐに傷んでしまったね。次はどんなことに気をつけようか?」など、実際の使用感や満足度について話します。
うまくいった買い物からは「価値」を見抜くヒントを、失敗した買い物からは次に活かす学びを得ることができます。
お金をかけずに「価値」を教える工夫
「価格」と「価値」について考える機会は、買い物をする時だけに限りません。お金を使わない場面でも、「価値」について話すことができます。
例えば、公園で遊ぶこと、図書館で本を読むこと、家族で一緒に料理をすること、手作りのプレゼントを作ることなど、お金をかけずに得られる楽しさや喜び、学びの中にこそ、計り知れない「価値」があることに気づかせることができます。
「この公園は無料だけど、思いっきり体を動かせて気持ちいいね。どんな価値があるかな?」「図書館で借りたこの本、とても面白かったね。お金を出さなくても、こんなに素晴らしい本が読めるなんて、どんな価値があるだろう?」といった問いかけを通して、お金を払うことだけが価値を得る方法ではないことを伝えます。
また、自宅にあるものを大切に使うこと、修理して長く使うことなども、モノの「価値」を理解する上で大切な経験となります。
結びに
子供が将来、経済的に自立し、自分らしい豊かな人生を送るためには、お金そのものを操作するスキルだけでなく、お金を通じて何を得たいのか、何に価値を見出すのかという「お金との向き合い方」の土台を築くことが不可欠です。
「価格」と「価値」の違いを理解する習慣は、その大切な土台の一つとなります。日々の生活の中で、親が子供と一緒に考え、悩み、話し合う過程そのものが、子供にとってかけがえのない学びとなります。すぐに完璧な判断ができるようにならなくても構いません。焦らず、子供のペースに合わせて、温かい対話を続けていくことが何よりも大切です。
経済的な不安がある中で、子供の将来のためにできることは限られていると感じるかもしれません。しかし、このように、お金をかけずに、日々の関わりの中で大切な「考え方」を伝えることは十分に可能です。そして、その積み重ねが、子供が将来、どんな状況でも自分にとっての「価値」を見つけ、賢く選択し、前向きに生きていく力となることでしょう。